同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

短編 13 【黒い爽快感】

  家の駐輪場から自転車に跨り通学路へと出てゆく。空は晴れ気候も穏やかだと言うのに、私の気分は今ひとつ外れている。体が少し重く力が思う様に入らない。加えて普段なら気にもならない上下のアンダーがとても苦しく感じられる。膝にかかるスカートの重みすら鬱陶しい。それでも登校の意思はあったのでどうにかしてペダルを踏む。私の通う高校までさほどの距離もない、しかしその僅かな時間でも苛立ちは募るばかり。

 
 
  嫌な汗を掻きつつ自転車を停め、校舎へ向かう。私の面持ちは頭痛によって酷いものに変わっていた。廊下を歩き途中から合流した友人が、私に挨拶をしたのにも気付かず、肩を叩かれ漸く振り向いたほど。自分の席に座り、何とか授業の準備を済ませそのまま机に突っ伏した。そんな私に数人の女生徒が声を掛けてくれたが、おざなりに返事をしてしまった所為で皆一様に怯え去ってしまった。
 
 
  唯一私の救いになったのは午後にあった体育の授業で、無理を言って見学を申し出たのである。この時の私は昼食すら満足に摂ることができず、せっかく母が持たせてくれた弁当もその半分以上を残して蓋をした。いよいよ意識が鈍り貧血すら起きていた。
 
 
  全ての授業を終え、帰り支度をしていると、今日の私を見かねたのだろうか割合仲の良い友人が、「調子良くなったら教えてね。」と不安そうな声色を見せたが、内心顔を合わせるのすら面倒に感じ、作り笑みを返してやり過ごしたのだった。本当の所は一発叩きたい気持ちしかない。
 
 
  朝より重くなった腰を抑え深呼吸をする。体が若干浮遊感に包まれて、期待が生まれた。今何よりも私が望んでいるのは、一刻も早くこの苦痛から逃れる事で、漸く訪れたその機会に最早焦がれる想いを抱いて、涙を流しながら待っていたのだ。
 
 
  徐々に減ってゆく生徒達、状況は整いつつある。あと少しでフロアの殆どが空になるだろう。逸る気持ちを全力で沈め、教室を出てゆく。廊下を駆けて目的の場所へ急いだ。階段から微かに聞こえる生徒の声に殺意を覚えるが、ここまで来てしまった以上期待に染まった心身を裏切れない。襲い来る欲望はもう限界に近く、直ぐにでも解き放ちたかった。階段からの視界に映る時だけ進むスピードを落とし、何事もない様に振る舞う。
 
 
  やっと辿り着いた部屋の中に飛び込んで、奥の扉を開けると一人きりになる。遂に迎えるこの瞬間。あまりにも長かった苦しみは、私の顔にニキビを作っていた。
 
 
  座り込んだ体に力を込める。いきなり全開にしてしまっては傷がついてしまうので、徐々に。目の前に見える白い壁はより良い集中を促し、スムーズな作業を行わせてくれる。
 
 
  そして全ての苦しみが体の内から黒く流れ去った。止まらぬ快感は永遠に思える。あとに残るのは段々と大きくなる多幸感であった。事の達成は心地よい疲労をもたらし、私は後始末を始める。扉を開けて外に出ると手を清めた。ついでに蛇口から水を飲み、スカートからハンカチを取り出すと水気を払う。
 
 
  天井を見上げ目を閉じた私は心の内で、しばらくは脂っこいものを控えようと誓ったのであった。