同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

短編 10 【小さい冒険者】

  細い道に小さな女の子が1人走っている。青いワンピースをがなびいて彼女の体を映す。晴れた今日の空に似合いの靴はアスファルトと土の上で跳ね、やがて彼女は公園に続く道にたどり着いた。駆けてく途中に畑が見え立ち止まる。膝を曲げると前かがみになって手をつき土を分けていた。中から這い出たアリを見つけると、手に乗せて眺めた。


  その姿に満足した後、ポケットにしまうと再び走り出す。その先でまっているのは友達で、いつも集合するのは電話ボックスの前だと決まっていた。首元から背中に流れる汗が冷えて気分がいい。手を振る友達が見え、急いで近寄るが変な事に気づく。いつも待ち合わせるこの場所に、見知らぬ男の子がいた。それを知った瞬間彼女の心に暗い不安がこみ上げてくる。だが勢いのついた体が止まることは無く、そのまま2人の前へ。


  彼女の視線は一度男の子に向けられたが、直ぐさま友達に戻し軽い挨拶を交わした。
「ひぃちゃん、今日はどこ行くの?」
普段と同じく聞こえた友達の声に不満が高まる。比べて明らかに不自然なのだが、それを指摘するつもりは彼女には無く、語気が強くなるのが抑えられない。
「誰その子。」
そんな彼女の内に気付く訳がなく、やや興奮気味に話す友達の顔が楽しそうだった。
「あのね、私の友達なんだっ。」
そして彼についての説明がしばらく続く。しかし当の本人は一言も話さず、やはり彼女に目を合わせる事すらない。その態度がとても気に入らず、言葉にならない不快感が怒りに変わった。
「帰る。」
言うと返事を待たずに振り返り、公園を後にする。そんな彼女に友達が追いかけてくるが、それすらも振り払い走り出した。


  目的の無い等身大の逃避行が長く続く訳がなく、体力の限界と共に道半ばで足を止めてしまう。上がった息が収まらず口は開きっぱなしだった。そうして落ち着きを戻すと、周りの風景にそれ程遠くに来れていないと知った。本当はもっとあの場所から、あの2人から離れたかった。自分の知らない事がある友達に我慢ならない。その思いは今の彼女の歳では一体何なのか理解できない。


  そこへ突如太ももに伝わる気持ち悪さに飛び上がった。慌てて原因を探すと、それは先程ポケットに入れた筈のアリが自由に動き回っていたのだと分かる。片手でそれを叩きため息を吐く。驚きに心が揺さぶられたものだから、今や彼女は疲れてしまい喉も渇く始末。すると不意に寂しさが体を圧し潰すような気分になり、水を求めて何も考えられず公園へと戻った。


  たどり着いて中に入ると、友達と男の子が砂場で遊ぶのが見えた。心に多少のモヤモヤが湧くが、早く水を飲みたい衝動には勝てない。水飲み場にいる彼女に彼等も気付いて走り寄ってきた。相変わらず黙ったままの男の子、その前に立つ友達。砂に汚れた手を差しのばして、
「何で急にどっかに行っちゃったの?おこってる?」
そんな言い分も当然で、しかし日頃ならば素直に話さない友達が、滑りよく口を開くのは驚きだった。
「ひぃちゃんがいなくなった後ね、この子が待ってよって。ずっとここにいたんだよ。」
心配と不満に話す後ろで彼の体がびくりとしていた。そんな光景にごめんと言いたくなったが、どうにもその一言が出なくて、誤魔化すように言う。
「分かったよ。うん、今から遊ぼ。」
本心の言えぬ彼女は2人の手を引き、公園のあちこちを走り回る。


  始めは怒っていた様な友達も、時間が経てば笑顔になる。感情を示さない男の子だって何故だか私についてきていた。


  幼い頃の思い出だが、私はきっと一生忘れない。