同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

短編 9 【蜘蛛】

  携帯のアラームが鳴るより先に、目を覚ました私。部屋に差し込み始めた日の光にぼんやりと瞬きをした。朝の私はしばらく動けず、はっきりとした意識とは裏腹に身体だけが重く動かないのだ。五分は続くその時間に私は頭を横にする。窓に向かって目を細めると、視界の端に何か黒いものが見えた。


  白い枕のシーツの上。斑点のようにポツンとした色合いでいたのは小さな蜘蛛だった。寝惚け眼良かったと思う。これがいつもの私なら多少なりとも取り乱していたかもしれない。とにかくそんな状態でいながら小さな生き物を見る。


  4対の足に小さく乗った大きな目。口か何かは分からないが忙しそうに動かしている。頭を向けた私に驚いているのかどうか、私たちはしばらく見つめあっていた。蜘蛛は体を小刻みに動かすと私を常に伺っている。果たしてこいつは人が怖くないとでも言うように。そんな気分にいたずら心をくすぐられ、私は彼の傍に指を置いてにょきにょきと這わせてみる。特に怯える様子も無く、指の先を興味深そうに確かめ前足で手探りしてきたのである。思ったよりも可愛らしいその動きに微笑ましくなった。


  手の上で彼を遊ばせていると、ようやく携帯のアラームが聞こえ、止める為に私は彼を放してやった。枕の奥へと消えていった彼を見送り、支度を済ませお勤めに家を出た。


  夜遅くまで続いた仕事に体はいつも通りくたくたで、自炊をする気力も湧かず、自宅にあるコンビニで手頃な惣菜弁当を買った。袋を下げてマンションに向かい玄関に着く、部屋に入ってすぐ手に持ったカバンを放り投げる。弁当を袋から取り出しレンジで温めつつ飲み物を用意した。服のボタンを外し首を揉んでいると、部屋の中に温まった弁当の香りが漂ってきた。


  意味も無くテレビをつけ食事を始めると、テーブルの端にまたしても蜘蛛がひょこっと現れた。今朝の彼だろうか。そうで無くては困る、この部屋にわんさか棲息されても、流石に不快になる。


  箸を止め、彼を警戒していると私達の間に一匹の羽虫が止まっていた。それを私が追い払うよりも前に、飛びついた彼によって捕らえられていた。獲物の動きを黙らせると後ろに下がっていく。


  一々警戒したのが馬鹿らしくなり、私はテレビを見始める。私と同じく彼も遅い晩飯にありついた、ならばお互い邪魔することはないと彼と別れを告げて、箸を動かす。


  しばらくこの部屋に同居する生き物ができた。変わらぬ日々に細やかな客人だった。