同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

短編 7 【優劣】

  昼休みになると、僕は数少ない友人の1人を連れて教室を出て行く。手に下げたビニール袋の音が廊下に鳴り渡らせながら校舎の外へ。隣を歩く友人は猫背が酷く、前を向くその顔は前髪が長く垂れ下がっており、隠れる様に眼鏡が見えた。2人がいつもの場所へ向かっていると、裏庭の横に数人の生徒が見えた。いち早く彼等に気付いた友人が、明らさまに怯えつつ呟く。
「あ、あ、離れよう。」
個人的にも彼等が苦手だったので、その提案に反対する事はない。

 

  その場から立ち去り、別の所に腰を落ち着けた。先程の光景を思い出しながら、袋より弁当を広げる。集団を作ってはいたが、しっかりと構図が敷かれており、1人を囲う様に数人が群がっていた。何をされているのかは明白だった。しばらく僕達は無言になって箸を動かしている。お茶のパックにストローを差し込んで中身を啜っていると、友人が話しかけてきた。
「今日は江口君だったね。」
弄られていた男子の名前を口にする。そこに含まれた感情には呆れが感じ取れた。
「うん。」
似た様な返事をして、それきり黙る2人。

 

  先週は別の人間がその立場にあった気がする。更に前へ思い返せばまた別の人間が。週替えでもって変わってゆくターゲット。面白い事もので、その対象はいつも同じグループの中から選ばれ、しかし順繰りに移るその立場も1人を例外的に除き、常に行われていた。まあ、要はその1人が中心なのだ。

 

  学校という特殊な環境で生まれるもの。余り余った余裕の暇つぶしの果てに、子供達は他人との繋がりを必死で持ちながら、その中での立ち位置を確かにしたがるのである。そうやって群れる僕らは、閉ざされた様にそれ以外を考える事が出来なくなり、やがてはつまらない状況にはまり込んで行く。

 

  友人と僕はその序列の中で最下層だと知っていたから、早々に手を組みお互いの安全と寂しさを補っているだけ。しかしどちらも安泰な事は決してないので、ふとした瞬間に崩れてしまう。ならばと助ける勇気はお互い無いものだから、恐らく見殺しにするかもしれない。幸いその機会はまだ訪れていない。確認をしたことはないけども、それは暗黙の了解だった。

 

  一通り食事を終えて、僕等は持参した漫画を各々に読み始める。すると向こうの曲がり角から1人の女子生徒が現れて、僕の視界を横切っていった。行き先にあるのはトイレしかないと知っていたが、案の定その中へと入ってゆく。彼女が何故離れにあるトイレを使うのか、理由は分からないがどうでもよかった。

 

  目に入った彼女の、丈の短いスカートから覗ける太ももがイヤらしく肉づいて、自然と勃起していた。そうなると僕は正直なもので、一切の好印象を持たない彼女にも関わらず、下劣な妄想を目一杯楽しんでいた。そんな彼女は僕のクラスにおけるカーストリーダーで、どうしてあんな奴にも生理が来るのか不思議で仕方なかった。

 

  最早漫画に集中する事は無く、若さに駆られどうしようもない事ばかりが廻り回っていた。要はあの2人が癌なのだ。取り除くのは誰でも出来るはずなのに、僕を始め1人として行う者はいない。
「ねえ、それ読んでもいい?」
声を描けられた事で我に返る。言葉の意味が理解できず、間抜けに聞き返した。
「え、何?」
「僕もそれ読みたいんだけど。」
そう言えばコイツはいつも僕の思考を上手に乱してくれるな。そう思いつつ差し出された細い手に本を乗せる。そうして何もする気が起きず、僕は近くのトイレへ行く為に立ち上がった。
「どこ行くの?」「トイレトイレ。」
言い残して向かう。

 

  僕等は今中学二年生。卒業までは半分を過ぎたという所。残りの1年で、あと何回僕達は優劣を求めて登校するのか。そうやって安易に死を願う僕は、多分間違ってはいない。