同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

短編 4 【消えた女】

  自分が勤める会社は都内に在り、毎朝車で通っている。途中、自宅からの道筋には大きな駅が見え、その前を通ると必ず信号待ちを食らう。そうして会社の近くまで来ると、一本の脇道に入り二軒先にある駐車場に車を停めた。

 

  外へと降りて鞄を持つと、目的の会社まで5分かけて歩く。やがて見えた建物の入り口まで来ると、中が妙にざわついているのが分かった。特に興味も湧かず、しかし今入れば確実に注目を集めてしまう。さりとて出社を拒む理由などにはならないので、少し面倒になりながら扉をくぐる。結局数人の社員に気付かれ近寄ってくる。挨拶がてらに話を促した。

 

  ちょっとした興奮に喋り立てる彼等、そのちぐはぐな内容をまとめれば、この会社に属する同僚の一人が行方知れずであると朝早くに警察から連絡があったとの事。名前を聞き多少驚く、それはどうやら自分の課にいる女性社員であったのだ。

 

  そんな彼女との面識はありはすれども希薄なもので、大して会話をした記憶はない。何度か数人と飲みにいったような気がしたがそれでも印象は弱かった。然りとて人一人が消えるというのは中々大事で、午前中には警察が訪れ話を詳しく聞くようだ。

 

  そんなもので皆一様に仕事に身が入らず、だらだらとその時を待てば、やがて社の扉から数人の男が現れて声を掛けてきた。
「どうもこんにちは、先程電話にて連絡を差し上げた者です。この度は急な事で申し訳ありませんが、少々お時間を頂戴します。」
やけに腰の低い眼鏡の男が先頭に、後ろに並ぶ者たちが一斉に頭を下げていた。

 

  自分の所にも幾つか話を聞いてきたが大した心当たりもなく、適当に答えるうちに彼等は去っていった。部屋にはまだ動揺のざわつきが支配していたが、次第にそれは失踪した彼女への案じるものに変わっている。

 

  無理して心配を示す皆の表情は同じもので、二、三日もすればその関心も薄れていく癖に、この場だけはと取り繕っている。

 

  本日の業務が終わりカードを押して外へと出る。車の元へ近づいていく最中、自分は思いついたように携帯を取り出してSNSを確認する。

 

  その間に車の運転席乗り込むと、目的のものを見つけた。とあるユーザーのアカウント、そこには数日に渡る情報が書かれており、しばらくスライドしていると気になる一言が見つかった。
「死にたい、もう疲れたヤダ。」
その後に続く内容は大したこともなく、エンジンキーを捻り車を発進させた。いつもと同じ帰り道、この情報もいずれは警察に知れるだろう。

 

  前を走る車を最後に信号が赤へと変わったのでブレーキを踏む。朝にも通った駅前をぼんやり眺めていると多くの人間が流れていた。そしてその中にわずかな違和感を覚え注視した。

 

  大きな旅行鞄を片手に引きずり、皆と同じく駅に向かう人間が。それは例の女性社員だった。しかしその外見は記憶とは違って、髪は短く服装も派手であった。自分の目に映る彼女は確かで、その表情は想像していたものとは異なっていた。

 

「何だよ、死ぬ気なんてさらさら無いじゃんか、アホらしい。」

 

  信号は既に青に変わり、後ろの車からはクラクションが聞こえていた。自分はアクセルを踏みながら、億劫と戦いつつ再び携帯を持つのである。

 

「もしもし、〇〇商事の田中ですが、先程の件で少々気になる事がありまして……」