同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

今年行われるだろうコミケ91に向け、初めて同人活動をする僕達。何もかもが手探りなお使い感覚。 果たして間に合うのだろうか。Twitter @eiennteinoirori  記載された内容に関しては転載禁止でお願い致しますす。

この度発足と相成った同人サークル《栄園亭の囲炉裏》

とはいえメンバーは3人。

こんなものかと思ってみれば前途多難かつ艱難辛苦であり、やっぱり五里霧中なので、こんなブログを始めるのにすら時間が掛かる始末。

大目に見てもらおうと思ったが矢先に槍衾を食らわされた様な顔面はいつも通り。

 

あ、Twitterという最高かつ耽美なツールを使っています。

とりま日本は死なないかもしれない総活躍射界になってゆくらしいので、ぼくらもどうじんかつどうをはじめたわけなんです。

 

このブログには短編小説を載せていく魂胆でいきますはい。

なのでどうか、どうか見てやって下さい。えへへ。

 

これから頑張ります、明日も明後日も。

断念ダンジョンまた来年…なんて行くわけないので第23回文学フリマ東京に参加します。

と言うことで、泣く泣く91を見送りました(泣)

ネットを見てたら文学フリマというものを知った、知ったら今度は応募した、通ったので瀕死になりつつ作品だします(謝罪)

 

第23回文学フリマ東京 (2016/11/23)

開催地 東京都大田区平和島6-1-1 東京流通センター

出店作品「Strike Down」

ジャンル:ライトノベル

ブース番号:【F-21】

 

こんな具合にさせて頂きました。本当皆んな頑張ろうね(メンバーに向け)あ、ふざけているようだけど参加する皆さんには平身低頭媚び媚びします(小声。)

 

しばらくブロッグ更新していなくて無責任だなぁと感じていましたが、いやほんと液晶画面の物理ダメージすごいっすね。肩もコリも何もかも吐き気に繋がってて、なんなら便秘にまでなってましたよ。しかも下○。

汚いとは思っているんだけどあぐらで作業しているもんだから、下手に力めないのよね。

 

作品の内容について感想一言。主人公じゃない人が一番活躍してる。

概要釈明。基本バトル物です、でもそんな描写初めてだからすっごい混乱しました。挿絵漫画が凄すぎて、おいらの文章が浮くこと浮くこと。共同作業としても処女ってる、から色々と稚拙な出来上がりかもしれない。相方殿は漫画を初めて描くとの事だけど、実際その実力は大したもんだと鼻血でました。好きです弟君♪。。。まあ、そういう積み重ねの差に打ちのめされたりなんだりして、それでも主人公らしく戦おうって腹の肉摘んで誓いました。

 

今作はいい思い出になりそうです。父の墓前に供えに行こう。

 

さあ、締め切りまであと二週間。本番は三週間。

短編 16 【本田さん】

  店のドアが開くと一人の男性が入ってきた。上海パブと銘打ったこの店の女の子達が一斉に迎えの声が上げる。夜の7時、決まって彼はここを訪れる。カウンターのママは彼に笑顔だけで奥の席へと促していた。


  ママは私におしぼりと箸を渡して目配せをする。ここ最近の彼のお気に入りは私で、四ヶ月経つ新人である私にはそういったお客は有難いものだった。


  手に持った物を彼の前に置いて隣に座る。始めに飲むのはビール。これもいつも通りで待たずにやって来た。普段ならばお通しを出すが、彼はそれを何度も断ったらしく何も置かれない。


  この時間ともなれば何処かの客がカラオケを楽しんでいる。流れるテロップと客の歌い声をつまみに彼の席は沈黙が漂うのだった。しばらくそんな空間が続くが、その長さも付き合いが重なれば傾向も読めてくる。と言っても大した事では無いのだが、彼の飲む酒、最初の一杯その減り加減で判断出来るのだ。つまり疲れが酷い時は早く、違うのであれば遅い。聞いてしまえば疑わしくなるが大抵そんな所の変化で分かるのだ。


  今日は割と疲れがある様で、早々にグラスが空になっていた。二杯目以降はウーロンハイを頼むので、私はグラスを下げつつママに合図を出した。一度後ろ振り返り彼を見て問いかける。
「焼きそば?」
「うん。」
酒と料理は一緒に出されるのが好みの彼。直ぐには出来上がらないので、私は席へと戻る。いつの間にか習慣になったこの時間の会話。この機を皮切りに色々と話し始める。


  酔いが回り語られる内容は、その殆どが職場での愚痴か通勤中の雑事。一番面白いのは彼のギャグ。中でも私のお気に入りで、リクエストを頼むものが一つある。彼の勤める職業は自動車製造業で、それも日産に属しているというのを会ったばかりに聞かされた。それを踏まえて彼はいつもこう言うのだ。
「僕はね、日産だけど本田なの。」
酒が無ければ成り立たないのを知ってか、本人もそう簡単には話さない。だがタイミングが合うと、これが中々ハマるのであった。


  二人でポツポツと話していると、ようやく出来上がった注文が並べられ、彼はまたしばらく黙るのである。


  私達を除いた店内が盛り上がる。別段そこに浪漫などありはしないが、不思議と穏やかな気分になってゆく。


  ある時店の女の子達から聞かされた話で、彼の事を注意された事があった。こういった所に来る以上、男女の仲が自然と育ってゆくのは仕方なく、特に私の様な新人ともなると自然に皆がこぞって近寄ってくる。

 
  そんな欲望に彼も漏れる事なく、うっすらと見える下心に皆からは、気をつけなさいよーと言われたのが先月。しかしそれからほぼ毎日彼と出会っているが何の進展もない。別に私からなにか起こす事はしないが、こうまで平穏だとちょっとした疑問も出てくるというものだ。加えて私で何人目かは知らないが、そう言ったアプローチが十年も続くとなれば、報われない努力と笑えないので尚更だった。


  時計を見ると既に9時を半も過ぎていた。隣を見れば出されたものの全てが綺麗になっており、彼は私に一言告げると手を握り伸ばしてくる。


  私はママの所に行き彼の勘定を済ませ、お釣りを渡しに戻った。財布をしまった彼は立ち上がると、ドアへと歩いて行く。彼の元にママが立ち寄ると腕を軽く叩いていた。そして小さく笑顔を見せ、店から一人の男が去っていった。


  彼を見送った私は尿意を催しトイレへと入る。用を足そうとポーチを洗面台に置くと、中に入った携帯が震えていた。取り出して電源を入れる。画面に表示された内容にちょっと驚いてしまう。
『今日も楽しかったよー☆ミ』


  あれはあれで悪くないんじゃないか。細かな気遣いに私ははにかみ、鏡でお色直しをするのだった。

短編 15 【ジッポー】

  朝から調子が悪いのを何となく覚えながら仕事をしていた。会社のトイレでその原因を晴らせば良いのだが、人目が気になってしまいずるずると昼までもつれ込んでしまった。それでも波は一旦落ち着いたので、昼飯を買いに行く為に外へ出た。ついでに済ませるつもりだったのだ。


  コンビニ袋を手に提げ会社への道を戻っていると、何かを忘れた気がして思い出そうとしていると、再び襲いかかってきた腹痛。後悔した時には遅く、我慢ならずに立ち止まってしまう。額に脂汗が浮き出て気持ち悪い。急いで辺りを見回しトイレを探す。今からコンビニに戻るには切羽詰まった状況なので、とりあえずゆっくりと前へ進む。幸運な事に、角を曲がった先には公園があったので、この際構わないと駆け込むと用を済ませる。


  一通りの脅威が過ぎ去って、軽い疲労感を携えながらトイレを出る。その先に簡易灰皿が見えたので、気持ちの整理をつける為向かう。そこには既に先客が一服をつけており、中年で小太りの男性が携帯片手にタバコを吹かしている。彼の深く吸い込んだ息、それが鼻から煙となって大きく登って行く。そんな彼の隣に立って懐からボックスを取り出した。中から一本を掴み口に咥える。火をつけようとライターを探したが見当たらず、しばらく体をまさぐるが結局無駄に終わってしまう。


  僅かな落胆にタバコを仕舞おうとした。するとそれを見ていた中年の彼が、内のポッケからジッポーを取り出した。そのまま一度こちらに手で会釈をしつつ差し出してきた。好意に気づき、咥えたタバコを彼へと向ける。適度に日焼けした彼の親指がケースを押し開く。独特な金属音が響き、そして指の腹で石が擦られると、勢い良く火が灯った。


  山なりに上がる火が、タバコの先端を焼く。肺の中に吸い込みながら彼に感謝を示した。笑顔を浮かべ一連のやりとりが終わる。つかの間二人で時間を共有していたが、彼は葉の減ったタバコを灰皿へ捨てると、こちらに軽く目配せをして去っていった。


  残った後に思い出されるのは彼のジッポー。銀の塗装は大分燻んで、黒が混じっていた。ケースを開くときに見えた中身は、多少の汚れで済んでいた。馬鹿になった蝶番によって横にずれた蓋。最後に見た全身は、角が丸くなっていて長い間彼の手で愛されてきたのだろう。


  シンプルながらに力強いタバコの友。昔はやけにキザだと鼻で笑っていたが、それは結局持ち主次第なのだっただと知る。余りにも自然に感じた彼の仕草に、すんなりと心を奪われてしまった。


  安い憧れだと恥ずかしくなったが、それも使い続ける事でやがて一体となる味わいに、深い感慨を覚え公園を後にする。


  長い人生の中に、一つ頼りになる相棒がいても良いだろう。

短編 14 【川の跡】

  帰路を歩く。長く伸びた道は緩くカーブを描いて僕の家へと続いている。地面は赤いタイルで舗装されて、その両脇には植込みが並ぶ。現れるカーブは何度もその軌道を変え、行く先を隠すが通い慣れた僕にはその後の風景が思い浮かぶ。


  何でも父親が言うには、この道は小川が流れていた所を埋め立てたのだとか。幼い頃の僕に対し満足そうに語っていたのを覚えている。その時は学校へ行く為に、成長してからは駅への近道として。そんな自分の人生に常とあった道。


  ある日のこと、仕事の為に駅へと向かっている途中。職場から電話が舞い込み、急遽休みとなってしまった。既に駅の方まで来てしまった僕は、時間を確認すると溜息を吐いて元の道を戻る。急なこととはいえ、折角なのだから何処かへ出掛けでもすればよかったのだが、その事に気付いたのはこの道に辿り着いた時で、ここまで来てしまうとそんな気も削がれてしまった。


  駅と自宅の半ば、その中で僕は暖かい気候と緩やかな風景に立っていると、不意に時間の感覚が薄くなっていく。近くに大きな通りも無くちょっとした風の音が聞こえた。草木が揺れ、波打つのを見るのは久しぶりで、爽やかに流れる緑が綺麗だった。しばらく茫としながら歩いてみる。すると植込みの合間、一つのベンチに老人が腰掛けているのが見えた。


  くたびれたカーキのハンチング帽、それに似合うだぼついたジャンパーを着込み、立てた杖に両手を乗せて風景に溶け込んでいた。ただじっとそこに佇む彼は目を閉じていて、もしかすると穏やかに寝息を立てているのかの様に。頭に乗った葉は彼がそこに長い時間座っていることを示す。朝に通った時、彼はそこに居たのだろうか。


  僕はそんな光景に興味を惹かれ少し考え込む。普段ならば機会すらない状況と降って湧いた好奇心。この道を通る人間は一体どの様な暮らしをしているのか、自分の知らない者に尋ねるのは気が引けたが、何かの縁だと思えば勇気もでてくる。


  そして恐る恐る近づいてみるも、知らぬ間に自分の姿が怪しいと気づき、恥ずかしさを誤魔化しながら慌てて姿勢を正して声を掛けた。
「あの、少し伺っても宜しいでしょうか。」


  そこから会話を繰り返し彼との時間を楽しむと、幾つかの事が分かった。彼の齢は九十を過ぎており、だが事実に反して精力的に話す言葉には力を感じた。その時代ともなれば当然戦争を経験しておるだろうから尋ねてみると、やはり旧帝国軍人で戦地に赴いた事があるらしい。しかし工兵隊に属していた彼は従事した任務中に戦闘に遭い、結果負傷した。その怪我を元に早い段階で後備役に回された後、終戦を迎え無事内地への帰還を果たしたという。


  その後の人生は家業を継ぐ事になったのだが、色々と面倒があったらしく、その辺りは詳しく話すことは無かった。奥さんとはとうに別れていて、半世紀近くひたすら勤勉に働いた彼は、息子に己の後を頼むつもりだったが、それも訪れることは無く遂には望み叶わず店を畳む事になった。そして十年の歳月をここにやってきては日光を浴びて暮らしている。


  ある種職業病と言えるのかもしれない。1人で働いてきた彼にとって今更何かに打ち込む気力など無く、いやむしろそれ以外の術を知らないのかもしれない。それが彼にとって苦痛に感じられるかは分からないが、少なくともこうして逞しく生きているのかもしれない。


  望まぬ孤独を抱えた彼と別れを告げて、その場を後にする。正直一人目からこんな重い気分になるとは思わなかった。それでも話を聞けたのは幸運だろう。こんな事でもない限り、他人の人生を考えさせられるなどないのだから。


  そんな風に気持ちを切り替えていると、前から一人の若者がいるのに気付いた。彼は道の真ん中を歩いている様だが、どちらに向かうでも無くノロノロと往来していた。その背格好は僕と同じくらいでスーツを着込み、携帯と睨み合っている。


  その姿に可笑しさを覚え、声を掛けてみる。
「すいません、どうかされましたか?」


  先程と同じ様に相手とのやり取りを経て、彼の事を知る。何でも今彼は就活生で、今日はこれから面接先へ行こうとしていたのだが、どうにも不安が高まって極度に緊張してしまっているのだとか。足取りが重そうな彼にもの懐かしさを抱き、彼を宥める。どうやら彼は、上京をするつもりでこちらの会社の求人に応募した。その為この近くにあるウィークリーで間借りをしながら生活をしていると。やや学生らしい物振る舞い、金銭の面でも苦労しているのだろう。こうなっては長く話し込むと彼に悪いと思い早々に切り上げると、彼は一度僕に礼を述べ視線を前に向けると覚悟をもって立ち去っていた。何だかこちらまで新鮮な気持ちになる。


  最後に出会った人物は、五十を越えた主婦で声を掛けるのは再び躊躇われたが、自分なりに目的を決めた以上行かぬわけにはならない。
「あー、突然すいません、話をお聞かせ願えないでしょうか。」


  彼女との会話には大分時間を労した。確かに井戸端会議の延長だったので面白い話をしてくれたのだが、得てして愚痴ばかりなのがどうにも。だが良く良く聞けば、一見何も煩い事の少なそうな界隈でも、色々と複雑らしく特にその内容が、一人目の老人へと差し掛かった時、僕は思わず聞き込んでしまっていた。


  彼女によれば、確かに彼は一徹者として有名であったが、一時期家業の事について息子と揉めていたらしい。それは警察沙汰にまで及び、静かな日々を過ごす彼女たちにとっては、大層面白いネタだったのだろう。彼が語らなかった内容がこうして、他人の口から漏れるというのは色々と思い知らされる。これも主婦を努める者に許された特権かもしれない。


  気付けば随分と話し込んでいて、昼を過ぎた途端何とも素直に僕の体は反応を示した。日差しは強く肌を焼く。今日はこの辺で終わりにしようと彼女に会釈をする。渋々と見送ってくれた彼女の視線を背中に感じ、一度家へ帰ろうかと思案する。母は驚くだろうが、欲求には逆らえない。とりあえず足を動かし携帯を取り出した。


  それにしても、道一つとっても歴史があり、そこに住む人間も変わりゆく。それは何かに記される事は無いが、こうやって語り継がれて行くのだと感慨深くなった。その情報に優劣はなく、漠然と広がっては消えてゆく。


  いつの日か僕もその一つになったりするのだろうか。そんな事を考えては我に返り、まずは自分の人生を全うする事が何よりなのだと戒めつつ、今日も僕はこの道を通る。

短編 13 【黒い爽快感】

  家の駐輪場から自転車に跨り通学路へと出てゆく。空は晴れ気候も穏やかだと言うのに、私の気分は今ひとつ外れている。体が少し重く力が思う様に入らない。加えて普段なら気にもならない上下のアンダーがとても苦しく感じられる。膝にかかるスカートの重みすら鬱陶しい。それでも登校の意思はあったのでどうにかしてペダルを踏む。私の通う高校までさほどの距離もない、しかしその僅かな時間でも苛立ちは募るばかり。

 
 
  嫌な汗を掻きつつ自転車を停め、校舎へ向かう。私の面持ちは頭痛によって酷いものに変わっていた。廊下を歩き途中から合流した友人が、私に挨拶をしたのにも気付かず、肩を叩かれ漸く振り向いたほど。自分の席に座り、何とか授業の準備を済ませそのまま机に突っ伏した。そんな私に数人の女生徒が声を掛けてくれたが、おざなりに返事をしてしまった所為で皆一様に怯え去ってしまった。
 
 
  唯一私の救いになったのは午後にあった体育の授業で、無理を言って見学を申し出たのである。この時の私は昼食すら満足に摂ることができず、せっかく母が持たせてくれた弁当もその半分以上を残して蓋をした。いよいよ意識が鈍り貧血すら起きていた。
 
 
  全ての授業を終え、帰り支度をしていると、今日の私を見かねたのだろうか割合仲の良い友人が、「調子良くなったら教えてね。」と不安そうな声色を見せたが、内心顔を合わせるのすら面倒に感じ、作り笑みを返してやり過ごしたのだった。本当の所は一発叩きたい気持ちしかない。
 
 
  朝より重くなった腰を抑え深呼吸をする。体が若干浮遊感に包まれて、期待が生まれた。今何よりも私が望んでいるのは、一刻も早くこの苦痛から逃れる事で、漸く訪れたその機会に最早焦がれる想いを抱いて、涙を流しながら待っていたのだ。
 
 
  徐々に減ってゆく生徒達、状況は整いつつある。あと少しでフロアの殆どが空になるだろう。逸る気持ちを全力で沈め、教室を出てゆく。廊下を駆けて目的の場所へ急いだ。階段から微かに聞こえる生徒の声に殺意を覚えるが、ここまで来てしまった以上期待に染まった心身を裏切れない。襲い来る欲望はもう限界に近く、直ぐにでも解き放ちたかった。階段からの視界に映る時だけ進むスピードを落とし、何事もない様に振る舞う。
 
 
  やっと辿り着いた部屋の中に飛び込んで、奥の扉を開けると一人きりになる。遂に迎えるこの瞬間。あまりにも長かった苦しみは、私の顔にニキビを作っていた。
 
 
  座り込んだ体に力を込める。いきなり全開にしてしまっては傷がついてしまうので、徐々に。目の前に見える白い壁はより良い集中を促し、スムーズな作業を行わせてくれる。
 
 
  そして全ての苦しみが体の内から黒く流れ去った。止まらぬ快感は永遠に思える。あとに残るのは段々と大きくなる多幸感であった。事の達成は心地よい疲労をもたらし、私は後始末を始める。扉を開けて外に出ると手を清めた。ついでに蛇口から水を飲み、スカートからハンカチを取り出すと水気を払う。
 
 
  天井を見上げ目を閉じた私は心の内で、しばらくは脂っこいものを控えようと誓ったのであった。

短編 12 【価値境界線】

  人間が物事を判断するに当たって、一番必要とするのが個々の価値観と言われている。それが育つのは殆どが環境によるもので、雑多な情報や諫言などでは揺るがずに定められて行くものだろう。余程の出来事がない限りだが。


  そうやって培われてゆく中、やがては現実との折り合いをつけ決定的なものへとなる。過誤はこの際別となり、生きていく上で半ば強制的に求められるのだ。


  となれば必然と時は過ぎていき、時代が変わってゆく。新たな世間の中で生れ出る価値観に気づく事が出来れば幸いなものだが往々にして難しく、気づけば取り残され凝り固まったものだと揶揄される。これがなかなか受け入れられないもので、せめてもの抵抗と生きたその長さでもって相対する羽目になるのだ「貴方より私は長く生きている。」


  まあ、これについては五分五分もしくは四分六といったところで、一概には断定できないところがもどかしい。結局歩んだ環境と降った運によってころころと形を変えてしまうからだ。


  これらを超え普遍的な価値観はおそらくは無い、つまり全ての事に価値はないとなる。死への印象ですら、長い時代をもって様々な意見が飛び交っているのだから。


  しかし、これを認めるのは容易ではない。そうでなくては何を土台に生きてゆくのかあやふやになり、最後には命を絶つしか解決できないからだ。その点だけは死は正しく機能するのかもしれない。


  述べれば述べるほどこんなにも不毛なことはなく、キーボードを叩く指が笑い始めてしまう。これは暴論かもしれないが、一つ疑問が湧く。果たして私たちはいつどの様にして常識や倫理、はたまた価値観というものを手に入れたのか。その様な意見が既に青臭いと思われるのだが、いざ問われればなんと答えられるのか。とても興味深いものである。


  世間の保つスピードに飲まれていると、どうにもこういった俯瞰的な思考が出来ない。仮に思いついたとしても、それを問うことのできる友人、親などがいるのかどうか。今更ながらに人を殺してならぬ理由、相手を傷つけてはいけない理由を阿呆みたいに聞くわけにはいかないだろう。決まって返りくるのは「お前ほんと暇だなぁ。」照れますね。


  皆んながそうだから改めて考えることはない、その考えるこそ全ての元凶だと私は思う。20歳を越えようが、定年を迎えようとも気になることを述べない事こそ、己をお粗末にさせるであって、必要性があるかと言われれば、そもそもこの国全てに必要なものは一切ないのだから気にしてはいけない。


  この様にしてお互いの価値観をぶつけることは、何も特別なことではなく、一つを挙げてしまえば音楽や服の好みですら各々分かれるだろう。そして妥協と参考を元に私達は価値観を固めてゆく。次に待つのは新たなもので、それがよければ迎合し、悪ければ無視をして境界線を引く。やがてそういった境界線が曖昧になって行き、根底は似ても全く目新しい何かに変わってゆくのだ。


  グダグダとなってしまったが、要は価値観ほど信じられないものはないけども、どうしても使わざる得ないもので、何かを論じたり作って行くのなら、是非はともかく何れかの強烈な信念をもってやるしかないのだ。


「価値観を壊せ!!」


壊した者が言うなら正に金言、そうで無いならほんとに戯言。


まずは基本の価値観を身につけた上で言うべき事なんだと思った。うぐあ。


そう、私の事だね。君もかもしれないね、やだっ立つ瀬ないわぁ。



そしておケツにこびりつくものを手紙で拭き取り、便器に流します。


流水音は今日も安らかな時をもたらすのです。


愛をくれ愛を。ギブミーラァブ。